約 1,076,890 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/898.html
その少女はごく普通の生徒だった。 ルイズのように魔法が使えないわけではない。ギーシュのような浮名を流したりもしない。 キュルケの情熱も無ければ、モンモランシーのいじらしさも無い。 タバサのような宿命も持たず、マリコルヌほど怠惰でもない。 美しくもなく、醜くもない、ごく目立たない容姿をしていた。少ないながらも友達はいた。 人並に魔法は使えたが、将来を嘱望されるほどの才能があるわけではなかった。 絵を描くことが好きだった。 明確な将来を思い描くことはできなかったが、嫁いだ先でも趣味を続けられたらな、と考えていた。 優しさや思いやりを持っていたが、それは小心からくる自己保身の意味合いが強かった。 また、けして「貴族の優しさ、思いやり」といった分を超えることはなかった。 春の使い魔召喚の儀式が始まり、終わるまでは、少女は埋没しがちな一生徒でしかなかった。 初めてその使い魔を目にした時、少女は少しだけがっかりした。 有能、無能ということではなく、その見た目が少女の趣味にそぐわなかった。 有体に言って、バラバラ、ぐちゃぐちゃ。気色が悪かったが、呼んでしまった以上は仕方が無い。 自分が何を召喚してしまったかも知らずに、少女は使い魔と契約をかわした。 使い魔はベッドの上一面に本を敷き詰めていた。 それだけでは足りず、本は机の上にも雑多に積み置かれている。 恋愛小説、エッセイ、学術書、辞書、事典、ジャンルの方も負けずに雑多だ。 餌をボロボロとこぼしながら、一瞥のみの速さでページをめくっていた。 右足が本を押さえ、左足がページを手繰る。右手で食べ物を掴み、左腕はベッドの上で本を整理していた。 少女はなるだけ音を立てないように扉を閉めたが、使い魔は動きを止めた。 ページを動かす十分の一程度の速度で顔を少女へと向け、 「おかえりなさいスカラファッジョ」 「……ただいま」 机から飛び降り、床を這って少女へと向かってくる。 這わなければ移動できないわけではない。少女が嫌がるのを知っているというだけのことだ。 「ねえ、スカラファッジョ」 使い魔は笑っていた。口の両端が頬を突き抜けてしまいそうに笑っていた。 スカラファッジョと呼ばれた少女は恐る恐る笑い返した。 「お願いがあるんです」 すがるように抱きつこうとしたが、少女は重量に耐え切れず尻餅をついた。 これも、もちろん分かっていてやっている。 「欲しい物があるんですよ」 「わたしが用意できるものなら……ね、ねえちょっと重いわ」 「世界の情勢が詳しく知りたいのです。それが分かる物をいただきたい。私もこの国のため役に立ちたいのですよ」 そんなつもりが無いことは、少女もよく知っていた。それでも頷く以外何もできない。 「それとですね、馬が一頭欲しい。なるだけ頑丈なやつがいい」 「そ、そんな」 「そんな……なんです?」 「そんなお金……も、もうわたしのお小遣いはありません。これだけ本を買えば蓄えだって無くなります。父や母は厳しいし、お金が入る当てなんか……」 「スカラファッジョ」 使い魔は身体を押し上げた。顔と顔が近づき、少女に生暖かい吐息がかかる。 「私はあなたのためにつくしてきました。スカラファッジョという素敵な呼び名を考えてあげましたし、不幸な事故によってあなたの内部が露出した時には、きちんと施術してあげた」 少女の背骨を悪寒が貫いた。小刻みな震えが止まらない。 「少しくらい、私がいい目を見てもいいんじゃあないですか?」 長い舌が伸び、少女の頬を舐めた。唾液の跡が月の光に照らされている。 「それに、あなたは豊かな方だ。お金は無くとも物がある。その豊かさを哀れな使い魔にもお分けください」 長い舌が、今度は眼球を舐めた。溜まっていた涙を丁寧に舐めとる。 「ざっとこの部屋を眺めただけでも、かなりの不必要な物がある。たとえば絵を描く道具。魔法の勉強には不要のものです。ドレス、宝石。メイジには必要ありませんね。それに……」 いつの間にか、左腕が床に降りている。形だけは優しげに少女の胸を押しやった。 「あなたには、それ以外にも……売ることのできるものがあるんじゃあないですか?」 少女は口も開けず、瞬きさえできないで、ただただ震えている。 使い魔はそれを見て満足げに微笑むと、 「ま、その話はとりあえず置いておきましょう。もう夜も遅いことですしね」 来た時と同じように、蜘蛛のように床を這って机の上へと戻っていく。 荒い呼吸ながらも、ようやく少女は息を吸い、吐くことができるようになった。 「寝る前に掃除をしなければいけませんね。健康な肉体を作るためにはそれなりの環境が必要です。ほら、見てください」 ベッドの上に戻った左腕が指した先には、床に散らばった餌の食べかすがあった。 「汚いでしょう。これはよくない」 よろよろと立ち上がり、杖を構えた少女に向けて、使い魔がさらに続けた。 「そうそう、貴族たるもの食べ物を大切にする心もまた大切です。大丈夫、唾液には殺菌作用がありますから、床を舌で舐めたくらいではくたばりません」 少女が凍りついた。 「さ、べったりと綺麗にしましょうね。私はお仕置きが好きではありませんので、きちんとやってください」 ――今は目立つわけにいかない……だからお前で我慢してやるよご主人様。 本を読んでるフリをしながら、こっそりと床を覗き見る。 使い魔の表情は愉悦一色に塗り固められ、少女の表情は……。 ――いいぞォ……もっとだ。もっと絶望しろ。そしてその表情を私に見せろォォォ……! 湿気に紛れて天井裏に潜り、地面へ染み込んで隠れ、今日も無事に偵察を終えることができた。 誰にも気づかれず、誰からも悟られず、この学院の全てを手中に収めつつある。 だが、まだ足りない。もっと情報が欲しい。メイジは何ができて、何ができないのか。どうすれば死んで、どうすれば苦しむのか。 ――眼鏡のドラゴンは多少気になるが問題ねェ。桃色髪が召喚した女は……俺達に似た匂いがするが、今は様子見か。それよりヤバイのは緑色のバラバラ野郎だ。 だが、どれだけ危険な人間であっても問題は無いだろう。放っておけば何かをやらかす。 おそらくはそれによって多くの人が死ぬ。自分の楽しみは減るが、減った分の楽しみもまたある。 多くの人を苦しめて殺したバラバラ使い魔は、必ず調子に乗るだろう。 調子に乗った馬鹿を恐怖させ、殺す。それ以外も殺す。全て殺す。楽しんで殺す。 本体を叩かれることが唯一の弱点だったが、それも昔の話だ。 岩としてこの世界にあらわれた自分を、スタンド使いだと考える人間がどこにいるというのだろう。いるわけがない。 ――これだけの雄餓鬼と牝餓鬼にかこまれてよォ……溜まっちまってしかたねェェゼェェェェェ……。 時期がくれば、その時こそ全てを開放しよう。考えるだけでありもしない涎が溢れた。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1958.html
黄金の使い魔-01 黄金の使い魔-02
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/707.html
一味違う使い魔-1 一味違う使い魔-2 一味違う使い魔-3 一味違う使い魔-4 一味違う使い魔-5 一味違う使い魔-6
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1925.html
女盗賊が投獄された地下の監獄。 杖もない、金属もない、身動きもとれないで脱出は不可能だと早々に決め付け、観念した女盗賊。 眠りにつこうと思っていた刹那、階段の上からコツコツと靴の音が聞こえてくる。 「『土くれ』だな」 男は低い声を出した。 「あんた、何者?」 フーケは男に問い掛ける。男は質問には答えずに 「再びアルビオンに仕える気はないか?」 「ふざけたことを言わないで、それ以上そんな話をするようなら助けに来てもらったところ悪いけど死んでもらうよ」 半透明で薄緑色のゴーレムのような物体が現れる。 「物騒だな、勘違いをするな。アルビオンの王家に仕えろと言っているのではない。あそこの王家はもうすぐ倒れる」 「バカどもがドンパチやってるらしいからね」 「その片方のバカの誘いだ。トリステイン貴族などという枠を越え、この世界を憂う貴族たちの連盟だ。目的はハルケギニアの 統一、そして最終的には『聖地』を奪還する。手始めにあそこの風石と造船技術を頂く。造船所のお上は掌握済みだ、 最後の詰めに、そしてこの先の夢をキャンバスに描くためにお前のような優秀なメイジが一人でも多く欲しい」 フーケは肩をすくめて笑う。 「バカ言わないで、夢は寝ながら描くものよ。私は貴族が嫌いだし、ハルケギニアの統一なんかには興味が無いわ」 男は更に低い声を出す。 「断っても構わん。牢獄に転がっている死体にまで頼むほど人材は足りていないわけではないからな」 フーケはため息をつく。 「なら最初からそう言いなさいよ」 「そうか、なら話は早い」 男はフーケに杖を投げつけ、衛兵から奪ったであろう鍵で扉を開け、拘束具を外す。 「好きに脱出するんだな、三日後にラ・ロシェールの『サンジェルマン』で待っている」 フーケは男に杖を向ける。 「あんた、私をバカにしてるんじゃないの?殺すなんて脅した後に杖を渡されてそのまま従うほど従順じゃないね。 『ジャッジメント』!」 フーケのスタンドが檻を破壊し、杖からは男に向かって石礫が飛ぶ。 しかし、そこに立っていた男はもう影も形もなく、今度は数人『その男』が階段から降りてくる。 「『土くれ』、なかなか頭の回転が速いが、相手の属性もクラスもわからないまま攻めるのは感心しないな」 数人の『男』が同時に同じ声を出し、エコーのように響く。男は重なり合い、一人になる。 「『偏在』かい、一瞬で消えたのは魔力温存のため当たる前に引っ込めたのかい?」 「『偏在』の部分はその通り」 「ずいぶんと余裕だね、偏在は偏在に重なれない、あんたが本体だってのはわかりきってるのにね!」 もう一度フーケは石礫を飛ばす。 今度こそ男の体を捉らえる。 そして、男の体は消える。 「なッ!これも『偏在』!?」 今度は一人増えた『男』が階段から降りてくる。 「どうだい、力の差というものがわかったかな?これで断るようでも、ここの裏に墓標くらいは立ててやる」 フーケは再度ため息をつく。 「わかったわよ、完全敗北ね。当面の間は大人しく従ってあげるわよ」 「そうか、ではラ・ロシェールでな」 男は重なり、今度こそ一人になり、そして、今度は一人も居なくなり、消えた。 * * * 「で、ワムウ、わかってるの?ふざけたことしないで大人しくしてなさいよ?」 「ああ、大体わかった。この国の姫が学校の視察に来るのか、また騒がしくなりそうだ。俺は適当なところにいる」 「そうはいかないわよ、使い魔と主人は一心同体、あんたも出ないと失礼に当たるのよ」 「面倒だな」 「だから大人しくしてなさいって言ってるのよ」 ルイズはワムウに言い聞かす。 先ほどコルベールが珍妙な格好で授業に割り込み、姫殿下が行幸されると伝えて今日の授業は中止となった。 姫殿下が通過するというだけでその街道はさながらパレードで、近隣の一般人が多く集まっていた。 王室の紋章の入ったレリーフが街道に並べられ、ユニコーンの引く馬車の中からアンリエッタ姫が手を振る。 「トリステインバンザイ!」 「アンリエッタ姫殿下バンザイ!」 「マザリーニ枢機卿バンザーイ!」 「君に会えてよかった!」 脇の民衆から歓声が沸きあがる。 馬車は魔法学院の正門をくぐり、整列した生徒が一斉に杖を掲げる。 アンリエッタ姫が馬車を降りると、歓声があがる。姫は優雅に手を振る。 ワムウが呟く。 「あれがそのアンリエッタ、か」 いつもならば姫を呼び捨てにするなんてといってすごい剣幕でまくしたてるルイズだが、ルイズはその呟きには答えなかった。 視線の先には姫の近衛兵であろう羽帽子をかぶり、グリフォンにまたがっている貴族がいた。 ワムウは鼻を鳴らし、ルイズが見とれている隙に人ごみから抜け出していった。 * * * 日も沈み、二つの月が部屋を照らす。 鍵をかけないことが暗黙の了解となっている窓が外から開き、ワムウがルイズの部屋に入ってくる。 てっきり、途中でいなくなったことについてなにか言われるとでも思っていたが、 ルイズは放心状態で入ってきたことにも気づかないようであった。 が、ワムウは気にも留めず、部屋に来る目的であった先日買った剣を拾い再度窓から出て行こうとした。 その時、ドアが規則正しくノックされる。 ルイズはハッとしたように立ち上がり、ドアを開ける。 そこには頭巾を被った少女が立っていた。 「静かに」 少女は呟き、杖を出す。 それを一振りすると光の粉が部屋に舞う。 「ディテクトマジック?」 魔法の正体にルイズが気づき、怪訝な顔をする。 「どこに耳が、目が光っているかわかりませんからね」 と頭巾の少女は返事をし、頭巾を外す。 その少女は、昼間歓迎式典を行った相手である 「お久しぶりね、ルイズ・フランソワーズ」 アンリエッタ姫であった。 彼女は感極まったようにルイズを抱きしめる。 「ああ、ルイズ、ルイズ、懐かしいルイズ!私の友達のルイズ!」 「姫殿下、こんな下賎なところにお越しになられるなんて…」 「ルイズ、そんな堅苦しい行儀はやめてちょうだい!あなたにまでよそよそしい態度をとられたら、私死んでしまうわ!」 「ああ、そんな姫さま…」 二人は昔話に花を咲かせる。ワムウはそれをつまらなそうに眺める。 「……忘れるわけ無いじゃない、あの頃は毎日が楽しかったわ。なんにも悩みなんてなくって」 アンリエッタはため息をつく。 「姫さま?」 「あなたが羨ましいわ、王国に生まれた姫なんて、籠の鳥も同然…飼い主の機嫌次第であっちにいったりこっちにいったり…」 憂鬱げに外の月を眺め、呟く。 「ルイズ、私結婚するのよ」 「…おめでとうございます」 アンリエッタの陰のある言葉にルイズは手放しでは喜べなかった。 「…あら、そこに立っているのはどなた?」 アンリエッタはワムウに気づき、尋ねる。 「私の使い魔です、姫さま」 アンリエッタは感嘆の声を上げる。 「すごいじゃないルイズ、こんなすごい亜人を召還したなんて!あなたって昔から変わってると思ったけれど… こんな使い魔みたことないわ!」 「そ、そんな…確かにすごいことはすごいですが私の命令に従うことなんて滅多に無くて…」 「そんな謙遜することないわよ」 「まだ数日しか立ってないのに決闘騒ぎに色々と言えない事まで…もし使い魔にするならイモリかこいつを選べと言われたら 迷わずイモリを選びますわ」 ルイズは憮然とする。それに合わせるようにアンリエッタはため息をつく。 「どうしたんですか姫さま」 先ほどからの過剰ともいえるおかしな様子にルイズが尋ねる。 「…いえ、なんでもないわ・・・ごめんなさい、あなたに相談できるようなことではないのに…」 「なんでもおっしゃってください、姫さま。そんな様子ではとんでもないお悩みを抱えているんでしょう?」 「いえ、話せません…悩みがあるなんてことは忘れてちょうだい、ルイズ」 「そんな、私を友達なんて呼んでいただいたのに、悩みを話せないのですか?」 ルイズは語勢を強める。 アンリエッタは嬉しそうに微笑む。 「嬉しいわ、ルイズ。今日初めて私を友達と呼んでくれて。わかりました、そこまで言うのなら話しましょう」 「外しても構わないか?」 ワムウは面倒ごとに巻き込まれるのは勘弁だと思い、なおかつこの姫には大してよい印象を持っていなかった上での発言だったのだが 「あら、人語も介するのね!お気遣いは嬉しいけれども使い魔と主人は一心同体、外さなくて構いませんよ」 やんわりと一蹴される。 そして、静かに話し始める。 「これから、話すことは、他言無用ですよ…私はゲルマニアの皇帝に嫁ぐことになったのですが…」 「ゲルマニアですって!あんな野蛮な成り上がりどもごときのうすっぺらな藁の家が深遠なる姫様の砦に踏み込んで来るのッ!」 ルイズが甲高い声をあげ、語を荒げる。 「ええ、でも仕方ないの…反乱を起こしたアルビオンの貴族がこのまま順当に王家を倒せば、トリステインに攻め込んで くるでしょう……地理上は隣接しているようなものですし、ゲルマニアの軍事力は驚異的、ガリアとは政治的主張が 似通っています…あの反乱軍は腐敗した王家を倒すのが目的だといっていますが、その建前で同じような政治形態の トリステインに攻めてくることはリンゴを幹から切ったら地面に落ちるくらい確実なの… それで、軍事的庇護を受けるためにゲルマニアと同盟を結ぶのに私が嫁ぐことは致し方ないのです……」 アンリエッタは手で顔を抑え、下に向ける。 「そうだったんですか…」 ルイズは沈んだ声で言う。 「それで、礼儀知らずのアルビオンの貴族派どもは私の婚姻を妨げるための材料を血眼になって探しているのです」 「…では、もしかして姫様の婚姻を妨げる材料があるのですね?」 ルイズはその意味を察し、尋ねる。 アンリエッタは悲しげに頷き、ひざまずき、顔を両手で覆う。 「おお、始祖ブリミルよ、この不幸な姫をお救いください…」 ルイズの顔は紅潮し、興奮した様子でまくしたてる。 「では姫さま!その婚姻を妨げる材料とはなんなのですか!」 アンリエッタは呻き声を出すように呟く。 「…私が以前したためた一通の手紙なのです…それがアルビオンの貴族派に渡れば、それをゲルマニアの皇帝に届けるでしょう」 「どんな内容なのですか?」 「それはいえません…ですが、それをゲルマニアの皇帝が読めば、この私を許さないでしょう。そうすれば婚姻は潰れ、 あのアルビオンの貴族派にトリステイン一国で立ち向かうことになります…それだけは避けなければなりません…」 ルイズはアンリエッタの手を取る。 「して、その手紙はどこにあるのですか?私、姫さまの御為とあれば鬼が島でもヒンタボ島でも夢見が島でも向かいますわ!」 「それが…現在火中にあるアルビオン王家のウェールズ皇太子が…」 「プリンス・オブ・ウェールズ?あの凛々しい皇太子様が…では、姫さま!この『土くれ』のフーケを捕らえた ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールとその使い魔にその任務、お任せください!」 「ああ、そんな無理よルイズ!現在火中であるアルビオンに赴けなんて危険なこと、頼めるわけがありませんわ!」 「何をおっしゃいます! 姫さまとトリステインの危機とあらば、私見過ごすわけにはいけません!」 ルイズは強い意思を伝える。 「この私のためにそこまで言って下さるの!これが誠の忠誠と友情というものなのですね!ありがとうルイズ!」 アンリエッタは感涙したように眼を手で拭う。 ワムウが自分たちの言葉に酔っている2人の話に割り込む。 「俺も行くのか?」 「当たり前でしょ、連れて貰えないとでも思ったの?」 「断る。受身の対応者である悲劇の姫気取りの尻拭いなど俺がやるようなことではない」 ルイズは顔を紅潮させる。 「なななな、なに言ってんのよあんたは!すみません姫さま、私の教育が悪くて…」 「言った通りだ、若いとは言え姫なのだろう?心酔している者も多くいるようだしな。一国で事を構えられるだけの国力と軍事力を 整えるなり、アルビオンに介入して反乱の目を摘んでおくなり、開戦を察知して安全なうちに手紙を回収することもできた。 だが、それを怠ったのはお前の責任だ。結婚による同盟も一つの選択肢であることを割り切っているならともかく 敗戦が確実になるまで行動をおこさず、悲劇の姫を気取っているような奴にただで手を貸すほど暇でないんでな」 「ワムウッ!姫様になんたる失礼を!謝りなさい!」 「いえ、ルイズいいのです。彼の言うとおりです、これは私の責任です…ただで、とおっしゃいましたね? ならば…母君からいただいたこの『水のルビー』を差し上げましょう。どうか、ルイズをお守りください」 アンリエッタは右手の薬指から指輪を引き抜き、ワムウに差し出した。 「そんな姫さま、畏れ多い…」 「ワムウッ!姫殿下になにをしたァーーッ!」 ギーシュが扉を開けて現れ、ワムウを怒鳴る。 すかさずワムウが殴り飛ばし、片方の手で指輪を受け取る。 「いいだろう、この依頼引き受けた。他言無用だったな?こいつは終了まで軟禁でもしておけ、なんなら証拠も残さず食うが」 ワムウの物騒な発言と拳を意に介さず、ギーシュはアンリエッタの前にひざまずく。 「姫殿下!その任務、どうかこのギーシュ・ド・グラモンにもお申し付けください!」 「あら、グラモンといえば…ワイルドキャット……じゃなくて…西部の投手でもなくて…」 「グラモン元帥の息子です、姫殿下!」 「知ってますわよぉおお!あなたも、私の力になってくれるとおっしゃるのですか!」 「ええ、もちろんです!加えて貰えるとしたらこれはもう望外の喜びに違いありません!」 「ではお願いしますわ、ギーシュさん」 ギーシュはひざまずいたまま深く礼をする。 「では、明日の朝に出発してください。貴方たちに始祖ブリミルのご加護かありますように」 * * * ラ・ロシェールの『サンジェルマン』。 一人の男と一人の女。 「…それで、お前には『女神の杵』亭を襲ってもらう。狙いはワルドとルイズ以外…たぶんあの使い魔だけだろう、その殺害だ」 「使い魔一人殺すのに私を使うのかい?自分を過信してるわけじゃないが、随分無駄な使い方だね」 「あの使い魔を舐めるな、『ゼロの使い魔』だ、なにが起こるかわからん。それにお前一人だけではない」 「やれやれ、あんたは敵の実力を過信しすぎじゃないか?まあ、軍人なんてのはそれがお似合いなのかもしれないけどね せいぜい丘の向こうの見えない敵に怯えてな。それで、私以外に襲うのはどんな連中なんだい?」 「お前と同じ貴族くずれのメイジだ、『同じ』、な。報酬の先払い分だ」 女は報酬の袋を開け、中身の量をみて驚く。 「使い魔一人殺すのにこんなに金を積むなんて、軍人の貴族さんは違うわね」 「相方も同額だ、文句は無いだろう。それに、戦争と暗殺と人脈に金を惜しむほど馬鹿なことはない。 コストパフォーマンスを考えればお前たちの力量ではむしろ割安だ」 フーケは袋をしまい、話を再開する。 「で、その相方とはいつ落ち合えるんだい?」 「二日後の同じ時間で先ほど言った『女神の杵』亭で下見も兼ねてもらう」 「わかったわ、任務はワルドとルイズ以外の殺害ね、あんたの言うように好きなように暴れさせてもらうさ」 「暴れるだけなら相方の方が上だ、対象以外の尊き犠牲がどれくらいでるか…ああ、心が痛むな」 「心にもないことを、じゃあ私は行かせて貰うよ、ここの勘定も報酬に含めときな」 女は店を出、扉の鈴が鳴る。 残された男は呟く。 「ふむ、勘定か。やれやれ、自腹など払うのもな、俺への報酬とさせていただこうか」 男は、一瞬のうちに姿を消していた。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/45.html
状況はどう見ても不利でした 一つに現状で逃げ切れないこと。二つの荷物(この状況ではルイズはお荷物です)を抱えたまま逃げ切ることは不可能です それに跳躍移動して逃げたとしてもそのときに耐えるのは自分の足です。そう何度も使えるものでもありません もう一つに 「・・・なんですかあれ?反則ですよ・・・」 敵のゴーレムです。やたらでかいゴーレムの肩に本体のロングビル・・・フーケがいます 跳躍を使えばすぐにいけるでしょうが迎撃されるのが落ちです (・・・ボス) そう考えたドッピオの判断は自らのボスに任せることでした 自分が出来ないのが不甲斐無いですが自分では防戦一方でフーケを倒すことは出来ないでしょう 「・・・お願いします・・ボス」 小声でつぶやき、ドッピオは自分の表層意識をディアボロに手渡しました ルイズはその小声を聞き逃しませんでした 言った途端、彼の力が一瞬抜け、すぐに持ち直しました 「・・・貴方」 ドッピオからボスと呼ばれたその人が現れたのです 「・・・・・・」 その人は終始無言で目前の敵をにらんでいました 「・・・学院内で貴族を倒した平民」 魔法を使う貴族を何らかの能力で倒した男。ヴィネガー・ドッピオ 「・・・だけどそいつより厄介な存在」 フーケは学院の騒動を聞きつけギーシュとドッピオの戦いを少々見ていました そして 「・・・雰囲気が変わった。今回も現れたようね」 何らかの能力を使って倒すドッピオ以上に厄介な存在。行動を無効化する男 遠くから観戦していたフーケはなんとなく雰囲気が変わるのが分かりました 「手加減は一切しない。最初から全力で・・・」 先に倒さないとこちらがやられる そう思って彼女は敵に対して全力を出しました フーケは土属性のエキスパート。その攻撃は全てが予想外な攻撃でした まずはゴーレム。コイツが直接攻撃してくるのは予測できましたが速さが機敏でした エピタフの未来予知が無ければ回避できないほど速い攻撃を後ろに跳ぶことでかわしますが 「キング・クリムゾン!」 未来の危険を察知し時を飛ばし回避します。飛ばし終わった後起こったのは蟻地獄でした 「くっ・・」 ディアボロは攻めるに攻められませんでした ゴーレムを壊そうとするも相手は土。攻撃が吸収されてしまうのです 肝心のフーケ本体は肩に依然いますが 「ちょっと!速くバーって倒しなさいよ!!」 この主人が邪魔で上手く攻められないのです はっきり言ってルイズはこの戦いで邪魔でした こうして一緒に戦わないと敵の攻撃がルイズに及ぶからです 戦う前、破壊の杖を取り戻し戻ったときのことを考えるとまずルイズを捕まえるつもりなのでしょう もちろんその程度でこちらが怯む理由にはなりませんがもし主人に何かすると使い魔に影響が及ぶならと考えると 「くそ・・・」 下手に放っておけません。どうするかと考えていると 「・・・ボスでいいのかしら?」 己の主にそう問いかけられました 「・・・ディアボロだ」 どうせこの主に名前を教えて問題ないと考えたディアボロはそう素っ気無く返しました 「それじゃディアボロ。はっきり言っちゃっていいから答えて。私が邪魔?」 「ああ」 気を使う必要が無いと考えたディアボロはすぐに返事を返しました こんな受け答えをしている間にもディアボロは高速で動き回り回避しています 「・・・それは主人が捕まるといけないと思っているから? それとも単に役に立っていないだけ?」 「その両方だ」 きっぱりといいました それでスイッチが入ったのか 「・・・上等じゃない」 ルイズはそう言って 「使い魔に戦いを押し付けてられないわ。私だって戦うわ!」 そうとんでもないことを言い出しました 「バカか?お前がどうやって戦うというのだ」 魔法を使えないルイズに戦う術なんて無い、と思うその考えは 「バカにしないで。気を引くことぐらい出来るわ、その隙を貴方が突いて」 「バカはお前のほうだ!いいか、無謀と愚考はどれ程強行しても叶うことは無い 己を未熟を呪うのならば成長しろ。己の過去に打ち勝ち次に自分が出来る最良のことを考えろ」 ディアボロは怒声を放ちました そこにはルイズの犠牲を前提とした作戦をやめろという彼らしくない考えがありました 「じゃあどうしろって言うの・・・私だって」 「『私だってプライドがある』か?そんなものそこらの犬にでも食わせてしまえ 生き残ればどんなことも出来る。成長して再戦し勝つこともな」 「・・・違うわ。私が言いたいのは」 一呼吸おいてから 「もう、アンタが限界だからそういってるのよ!」 「私が限界・・・?」 そう言われて自分の体を見ると 「なっ・・・」 回避し切れなかった攻撃を喰らいズタズタになった体だった 特に跳躍を混ぜた回避に耐えられなくなった足がもう黒ずんでおり痛みさえも感じなかった 「・・もうこれ以上迷惑はかけられないわ」 そう言ってルイズはディアボロの腕からするりと抜けました 「・・・今度は私が相手よ!」 そんなバカな行動をする主を止めようとして 「・・・?」 自分の足がもう動かないことに気づきました フーケはもはや限界に達した敵を見て最後の止めを刺そうとしました ですが 「・・・今度は私が相手よ!」 そんな彼の主の声にさえぎられました 「・・・正気?貴女ごときが私に敵うとでも?」 「やってみなくちゃわからないわ」 「そう・・・なら」 止めの一撃の対象を変えてフーケは 「その愚行を後悔するのね!」 土のつぶてを使い魔の主にぶつけようとして 「キング・クリムゾン!」 使い魔にさえぎられたのでした ディアボロは自分の主の危機を察知し咄嗟にスタンドを発動させました そして今、千載一遇のチャンスが来たのです (・・・跳躍!) キング・クリムゾンの力で再度跳躍します。狙いはフーケ本体です 攻撃はルイズにあたりますがそれはこの吹き飛ばした空間で無効化できます そして 「終わりだ!!!フーケ!!!」 その杖を破壊しました フーケは自分が愚行を行ったことに気づいていました ただ、使い魔を守ろうとするその主が自分とは違い、認めたくなく、否定しようとその魔法を発動させました 結果、やはり使い魔の男に邪魔をされ、その男が目の前に来ました 瞬間移動としか取れないほどの速さで接近した男は不可視の力を使い自分を倒すでしょう きっと自分は目の前の男に殺されるだろうと死の決心をしました たとえ殺されなかったとしてもこの高さから落ちればそれが決定打になります 「終わりだ!!!フーケ!!!」 終わりの一撃が来ます。そのときに思ったのは (・・・何を思い出しているんだか) 走馬灯でも、ましてや何も考えない無の境地でもなく この男ではないもう一人の男の子の笑顔だった だが、終わりの迎えはこなかった 「・・・え?」 その驚嘆は自分が出したものと気づくまでに少しかかりました 目の前の敵は殺すもせず、殴るもせず、ただ自分を無力化したのです 「・・・なぜ?」 驚嘆の後の疑問それに男は 「・・運が良かったな。ドッピオは少なからず貴様に好意を抱いていたようだ」 とまるで他人事のように答えた。と同時に ドサッ 「な?!」 ディアボロはフーケに倒れ掛かってきました。突然のことに反射的に受け止めたフーケ そのときに男は言葉を言いました。それは 「・・・もう、こんなことをやめてください。ロングビルさん・・・」 さっきの男ではなく、自分にも優しくしてくれた男の子の声だった ゴーレムが消えていく。それは術者のフーケが魔法を使えなくなったからだ。同時に上の二人も落ちていきます もはやそれは反射的な危機対応能力なのか男は女性に抱えられたような状況の中不可視の力を使って着地します 「・・・なぜ」 最後の最後まで自分に優しくしてくれた男の子には疑問しか見出せなかった 「・・・今はドッピオみたい、ね」 その声はこの男の子の主、学院でゼロのルイズと言われている学院生です 「・・・すいません。ルイズさん」 開口言った言葉は謝罪でした 「謝る必要なんてないじゃない!フーケを倒したのよ?」 そのフーケは今、気絶をしている 「それじゃ後はフーケを差し出して」 「ルイズさん・・・ちょっと待ってください」 「え?」 ここでドッピオが止めるとは思わなかったルイズは言葉に反応して足を止めました 「・・・見逃してあげれませんか?」 「あのね、なんで見逃す必要が」 「今回の目的は破壊の杖を取り戻すことですし・・馬車も無いなら連れて帰れるほどの余裕も無いですよ」 一応筋は通っているがドッピオの本心はそこには無かったのです ただ、盗みとかをやめてくれればドッピオは満足だったのですから 「・・・まあ確かにそうね」 ルイズ自身も渋々納得し今日はこれで帰ることとなりました 11へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/182.html
ルイズが目を覚ましたのはそれから半刻ほどしてからのことだった。 辺りには誰もいない。どうせなら鉄塔から救出されベットの上で目を覚ましたかったのだが。 「あら、やっとお目覚めのようね、ゼロのルイズ。いえ、今はさしずめ鳥籠のルイズと言ったところかしら」 目覚め一番に嫌なやつが現れる。 宿敵ツェルプストー家の女、通称『微熱のキュルケ』。 この家の人間と関わるとろくな事にならないのは歴史が証明している。 「・・・何の用かしら? 生憎今はあなたの相手する元気ないんだけど」 「あらあら、いっちょ前に落ち込んでらっしゃるのかしら。失敗なんていつものことでしょうに」 「喧嘩売りに来たの? あなた」 「まさか。あなたと違って私は忙しいのよ、マニカンにエイジャックスにギムリ・・・」 「だったらあたしに構わずさっさと行けば?」 「そのつもり。でもその前にミスタ・コルベールからの伝言よ。『ゼロのルイズよ。申し訳ない。君をそこから出すのには 時間がかかりそうだ』だって」 「・・・なんですって!」 ルイズは激昂した。 「どう言うことよ説明なさい! というかあんた「ゼロのルイズ」って勝手に改変してんじゃないわよ!」 「ミスタ・コルベールの話じゃね、どうも誰かさんの失敗のおかげで学内の建物にかなりのダメージが 発生してるそうよ。ほっとくと倒壊の危険性があるから先にそっちの補修にまわってるんですって」 そういってキュルケは塔を指差す。 鉄塔は私が倒れる前と同じくそこに佇んでいた。 さながらそれが当然と言わんばかりに。なんと憎憎しい奴であろうか。 「まぁそういうわけであなたはしばらくその鳥籠の小鳥ってわけ」 「・・・そう」 そう言ってルイズはかくんと肩を落とした。 その様にキュルケは少し驚いた。 「あらら・・・コレはほんとに重症ね。今までのあなたならもう少しヒステリックにがなりたててたと思うけど」 「あなたには分からないわよ。あなた悩みなさそうだもんね」 そう言って鉄塔に寄りかかるルイズ。 そこにいつもの気丈な彼女の姿はなかった。 ただ単に地面で寝てたせいで体の節々が痛いせいだったりするのだが。 「・・・ああもう! 頭にくるわねあなた。しゃきっとしなさいよしゃきっと! それでも私のライバル?」 「いや別にあなたをライバルと思ったことなんてないけど」 いつか始末すべき宿敵とは思ってるけどね、と心の中で続ける。 と言うか男待たせてんじゃなかったっけ?とも思う。 暇よねえこいつ、と鼻で笑う。 その態度がキュルケに火をつける。 「そう、言ってくれるじゃない。いいわだったら思い知らせてあげる。ツェルプストー家を 軽く見るとどういうことになるか!」 そう言って彼女は詠唱を始める。 炎と炎。『フレイムボール』の詠唱を。 「ちょっとキュルケ! やめなさいよ!」 「大丈夫よルイズ、あなたとは違うんだから。離れてなさい。巻き込まれるわよ」 「そうじゃなくって!」 キュルケはどうやら鉄塔を破壊しようとしているらしい。 それは分かる、私もそれは考えた。だがどうしても実行する気になれなかった。それは別に自分の使い魔 だからとかセンチメンタルなことでなく、得体の知れない何かが私に警鐘を鳴らすからだ。 この塔を攻撃してはいけない、と。 「はぁっ!」 詠唱を終えたキュルケがフレイムボールを鉄塔の足にたたき付ける。 爆発ともに炎上する鉄塔。ルイズはあわてて対角線の鉄塔の足まで逃げたがとばっちりを受け、すすだらけになる。 「ゲホッ! だからやめろって言ったじゃないのよ!」 「・・・丈夫ねえこいつ」 鉄塔は熱で若干曲がりはしたものの未だ健在だった。 「あーあ、なんか冷めちゃった。あとは任せるわ」 「あんたねえ・・・・」 手をひらひらさせながら去っていくキュルケ。 熱しやすく冷めやすい、これもまたツェルスプトーの宿命だった。 ・・・・・・・・・・・ォン・・・・・・・・・・オン その時だった、聞き覚えのない妙な耳鳴りが聞こえてきたのは。 「何の音?これ」 「なんのこと?」 ・・・ウォン・・・・・・ウォン 音は塔の頂上から聞こえてきた。少しずつ音の発信源は下へと降りてくる。 「コレって・・・塔の叫び?」 「だからさっきから何言って・・・」 ウォン・・・ウォン・・・ウォン! ドォン! 音はキュルケの攻撃した所まで来ると『何か』を放出しキュルケを吹き飛ばした。 そのまま壁にたたきつけられるキュルケ。ぐったりとして動かない。 「ちょ・・・キュルケ、しっかりしなさいよキュルケ! だれか、だれかーーーーー!!!!」 その後偶然通りかかったタバサによってキュルケは医務室に運ばれた。 彼女の外傷に一切の魔術的ダメージがなかったため先生たちの見立てでは『魔法の失敗』ということだった。 あのキュルケが魔法に失敗し病院送り、その話は瞬く間に学内中に広まり物笑いの種となった。 その中で笑ってない(笑えない)者が一人。 「・・・あれはあんたの仕業なの?」 ルイズは一人つぶやいた。本当に話しかけたつもりだがそこに話を聞いていそうな存在はいない。 ただ鉄塔が召還された時と同じように錆付いた体を晒すのみだ。 キュルケの与えたダメージもいつの間にか戻っている。 「与えたダメージをはね返す。これがあなたの力なのね?」 やっぱり塔は答えない。 はぁ、とルイズはため息をつく とりあえず今分かってることは二つ 一つはこの塔の中に入った者は出られないと言うこと。 もう一つはこの塔を壊すことは出来ないと言うこと。 「いったい・・・どうしろって言うのよ」 彼女は思ってた以上に現状が深刻であることに気づき、がっくりとうなだれた。 キュルケが医務室に運ばれたころ、上機嫌な女性が一人。 「ふふ・・・嬉しい誤算だわ。今日の晩には事を成せそうね」 彼女の名はミス・ロングビル。またの名を土くれのフーケ。 今巷を賑わせてる大盗賊だった。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1799.html
風と虚無の使い魔-1 風と虚無の使い魔-2 風と虚無の使い魔-3 風と虚無の使い魔-4 風と虚無の使い魔-5 風と虚無の使い魔-6 風と虚無の使い魔-7 風と虚無の使い魔-8 風と虚無の使い魔-9 風と虚無の使い魔-10 風と虚無の使い魔-11 風と虚無の使い魔-12 風と虚無の使い魔-13 風と虚無の使い魔-14 風と虚無の使い魔-15 風と虚無の使い魔-16 風と虚無の使い魔-17 風と虚無の使い魔-18 風と虚無の使い魔-19 風と虚無の使い魔-20 風と虚無の使い魔-21 風と虚無の使い魔-22 風と虚無の使い魔-23 風と虚無の使い魔-24 風と虚無の使い魔-25 風と虚無の使い魔-26 風と虚無の使い魔-27 風と虚無の使い魔-28 風と虚無の使い魔-29 風と虚無の使い魔-30 風と虚無の使い魔-31 風と虚無の使い魔-32
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/304.html
二人の囚人が鉄格子の窓から外を眺めたとさ。一人は泥を見た。一人は星を見た。 そして、空条徐倫が見たものは―――。 少なくとも、眠りに着く前に見上げた夜空に見えたものは、在り得ない筈の『二つの月』だった。 空条承太郎の血統、徐倫。行き着いた先は『異世界』である。 目を覚ますと、まず床の硬い感触が右半身を圧迫して僅かな痛みが走った。 お世辞にも寝心地が良いとは言えない不快な感触で徐倫は目を覚まし、同時に寝る前の状況で夢でも幻覚でもないと自覚し、憂鬱な気分になる。 目を開けて、まず視界に入ったものが昨日ルイズの放り投げた下着である事を確認して、更に飛びたくなるほど欝になった。 生きている事は素晴らしい! 自分がバラバラになって死ぬような体験をした後なのだから、その気持ちは尚更だ。 しかし、人はただ生きるだけで満足出来る存在ではないのだった。 「『使い魔』か……『奴隷』と変わらないわね。囚人よりは、まあマシかもしれないけど……」 バリバリと頭を掻きながら、徐倫は昨夜ルイズと交わした幾つかの会話を思い出していた。 この世界は『ハルケギニア』 あの日は『魔法使い(メイジ)を目指す学生達が使い魔を召喚する内容の授業だったので』ルイズも召喚し『それを失敗した』―――。 以上が、徐倫がまず尋ねた『何処?』『何故?』『どうやって?』という基本的な質問に対するルイズの答えである。 ここはハルケギニアという魔法中心のファンタジーやメルヘンの世界なのだ。 突きつけられた現実は、実に空想的で胡散臭いものだったが、徐倫は呆れこそすれ、意外にも認める事はすんなりと出来たのだった。 元々、不慮の事故で刑務所送りになった薄幸の一般人である徐倫にとって、理解の及ばない状況というのは慣れ親しんだものだ。 スタンドを始め、今回の魔法に至るまで、『不可思議』という点においてどれも大して差はない。 例えば、初めて徐倫がスタンド能力に目覚めた時、『この力は魔法というんだ』と言われたなら、きっとそれで納得していただろう。 言葉一つ、認識一つの違いなのだ。 元から生まれ持ち、数々の異常の中で培った徐倫の適応力は大きかった。 徐倫が異世界人である事を、ルイズは形ばかり認めたが、心底では信じていないのは丸分かりだった。 それよりも重要な事は、ルイズ曰く『元の世界に戻る方法は無い』という事である。 ここが異世界であると理解した瞬間に浮かんだ『戻る』という選択肢。それはもはや、徐倫の中で目的として固まっている。 仲間も親も失い、残ったのは恐るべき敵と狂った時間しか待っていないあの世界に、しかし徐倫は帰る事を望んでいた。 戻れば死は明らかだ。あるいはもう全て手遅れになっているかもしれない。 それでも、戻らずにはいられなかった。 何もかも失ったあの世界で、それでも残してきた物は幾つもあるのだ。 かくして、徐倫はやるべき事を見出した。 『元の世界に戻る方法を探す』 他人の否定は関係ない。無理や無茶は、過去何度も繰り返してきた事だ。どうって事は無い。 そんな密やかながら確固たる目的を、もちろんルイズには話さず、徐倫は結果的に一先ずこの世界で暮らしていく為に、ルイズの使い魔となる事を認めたのだった。 そして『使い魔』とは―――実質『召使い』や『奴隷』も同然だった。 「朝よ、お嬢様」 徐倫はとりあえず、すやすやと心地良さそうに眠るルイズを起こす事にした。 しかし、声を掛けただけでは反応すらしない。ムッときた。 朝一番に目覚まし時計代わりをさせられる事に不満がないわけでもないが、それよりも硬い床で寝転がるしかない自分を差し置いて、柔らかいベッドで眠るルイズとの格差にムカついた。刑務所にもベッドぐらいはあったというのに。 徐倫はルイズの毛布を剥ぎ取ると、どさくさに紛れて額を叩いた。 「痛い! な、なによ! なにごと!?」 「おはよう、お嬢様」 「はえ? ……あ、あんた誰よ!」 「寝惚けてんの? それとも頭脳がマヌケ? 徐倫よ」 「……ああ、使い魔ね。そうね、昨日、召喚したんだっけ」 ルイズは納得したように頷いたが、やはり寝惚けているらしかった。 昨日の会話の端々でも、徐倫の口の利き方に一々文句をつけていたヒステリーっぽい反応が、さっきのマヌケ発言に対して起こっていない。 『黙っていれば可愛い』という評価を、地でいく少女だと徐倫は思った。 自分の意思を無視してこの世界に呼び出したくせに、それが当然であるように振舞う態度のデカさが昨日から気に入らないと思っていたが、なかなかどうして、欠伸を噛み殺す姿は平和で微笑ましい。 一人娘の徐倫は、ルイズを世話のかかる妹のようだとちょっとだけ感じた。 「服」 「はいよ」 命令口調のルイズにも、やれやれと従ってやる。ここは、寛大になってやろう。 下着も受け取って、それを身につけたルイズが再びだるそうに呟く。 「服」 「さっき渡したでしょ?」 「着せて」 「…………は?」 ルイズの王様発言を、徐倫は一瞬疑った。 「……何だって?」 「着せて」 律儀にもルイズは正確に繰り返した。 オーケイ。ナメんな。 怒鳴りながら目の前の甘ったれた小娘を殴り飛ばしたい衝動を、徐倫は素晴らしい忍耐力で堪えた。 あの悪夢のような刑務所での生活は、確実に人を変える。『駄目になる』か『成長する』か、だ。 徐倫はまさしく後者だった。沸点の低い今時の若者だった徐倫は、少しだけ大人になっていた。 「……手、上げて」 「んー」 結局、徐倫はルイズの着替えを、まさに召使いのように手伝った。 ルイズがいつか小便の手伝いまでするよう言い出さないか、割りと本気で心配しながら。 「おはよう、ルイズ」 褐色の肌、長身、雰囲気、バストサイズ―――ルイズと徐倫が部屋から出てすぐに出会ったのは、そんな風にルイズとあらゆる意味で正反対の少女だった。 ルイズは顔を顰めると、嫌そうに挨拶を返した。 「おはよう、キュルケ」 「あなたの使い魔ってそれ?」 「そうよ」 「あっはっは! ほんとに人間なのね! すごいじゃない!」 愉快そうに笑うキュルケが自分をバカにしているのだと徐倫には察する事が出来たが、特に腹は立たなかった。 侮辱や侮蔑は刑務所で最も多く向けられた感情だ。 何より、人間がどうのと言われても、それが本当に侮辱なのかイマイチ判断しにくい。事実、自分は人間なのだから。 それよりも徐倫は、純粋にこのキュルケという、初めて会うタイプの少女に関心を抱いていた。 過剰な色気を纏う女は、娼婦くずれの犯罪者も多い刑務所でもよく見かけたが、キュルケにはそんな奴らには無い高貴さがあった。 これがルイズの強調する『貴族』というものか、と納得する。確かに、そこいらの女とは磨かれたモノが違う。 一見して犬猿の仲であると理解できるルイズとキュルケは何やら言い合っていたが、ふとキュルケの方が徐倫の視線に気付いた。 「お名前を聞かせてもらえるかしら? 使い魔さん」 「徐倫よ」 「ジョリーン、ね。……平民だけど『なかなか』ね。本当にルイズが召喚したのかしら?」 値踏みするような視線を徐倫に向けながら、キュルケが面白そうに笑う。その言葉に、ルイズは改めて自らの使い魔を見た。 190センチを超える長身の父・承太郎とアメリカ人の母の血を引く徐倫は、女性にしてはかなり長身の部類に入る。 身長のせいか、キュルケほどバストは強調されないが、下品ではない程度に付いた筋肉で体は引き締まって見える。足はスラリと長い。 キュルケとはまた違った意味で色気があり、またある意味同じ種類の美女だった。 いろんな意味で小柄な自分との対比を思い浮かべ、自然とルイズの顔はしかめっ面へと変わっていった。 「うるさいわね、あんたには関係ないでしょ」 自然、更に不機嫌になったルイズは吐き捨てるようにキュルケを突き放した。 「あたしも昨日、使い魔を召喚したのよ。誰かさんと違って、一発で呪文成功よ」 「あっそ」 ルイズの反応は素っ気無かったが、徐倫はわずかに目を見開いた。 キュルケの傍らにのっそりと現れた『使い魔』とやらは、巨大トカゲとしか表現出来ない、少なくとも徐倫の知識には存在しない生物だったからだ。 尻尾の先が常時燃えている生物など在り得る筈が無い。 「……それが、あなたの『使い魔』なの?」 「そうよ、火トカゲよー。見て? この尻尾。 ここまで鮮やかで大きい炎の尻尾は間違いなく火竜山脈のサラマンダーよ? ブランドものよー」 「へえ」 専門的な用語の混ざるキュルケの説明に、徐倫は適当な相槌を返しておいた。 未知との遭遇を果たした徐倫に、驚きはあれど恐怖や警戒は湧かなかった。確かに見た事も無い生物ではあったが、彼女がこれまで遭遇してきたスタンドなどにはもっと醜悪な見た目や性質を持つ者もいた。 それに比べれば、ここまで分かりやすくファンタジーなデザインを持つ生物は、充分目に優しい部類に入る。 ただ、目の前の火トカゲとやらには新鮮な驚きを感じ、それらが当たり前に闊歩するこの世界の常識に少しだけ呆れた。 サラマンダーの凄さがイマイチ分からない徐倫を尻目に、ルイズはその価値が分かるのか、悔しそうにキュルケの言葉を聞いている。 「じゃあ、お先に失礼」 やがて使い魔自慢に満足したのか、キュルケは炎のような赤髪をかき上げ、颯爽と去っていった。その仕草にも、やはり平民の女には無い気品がある。 徐倫は面白そうに笑った。 自分の仲間は変人ばかりだったが、全ての出会いは新鮮で、思い返せば掛け替えのないものだった。この異世界で、そういう出会いがまたあるのかもしれない。 「くやしー! 何よっ、火竜山脈のサラマンダーを召喚したからって……! 何、笑ってるのよ!?」 「なかなか面白そうな友達持ってるじゃない?」 「あんなのが友達なわけないでしょ! 言っとくけど、あんたもアイツと関わっちゃ駄目よ!」 「そう? ご主人様を上手くあしらう方法の参考になりそうなんですけどォ~」 「あんた、本当に反抗的ね……餌抜くわよ!?」 「あたしを犬扱いするなッ! お前、本当に崖から飛ばすぞッ!!」 相変わらずコイツは生意気だ。殴りたい。ムカつく。 徐倫はルイズと言い争いながら、内心で思った。 一方で、ルイズは徐倫と言い合いながら同じ事を考えていた。 優雅に歩いていくキュルケとそれに付き従うサラマンダーの姿が理想的な主従の関係であるのなら、その少し後に口喧しく言い争いをしながら肩を並べて押し合い圧し合い歩くルイズと徐倫の姿はなんとも珍妙なデコボココンビに見える。 二人の相性は一見最悪であり、しかしまた奇妙なところでひどく息が合っているようにも見えるのだった。 To Be Continued →
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1043.html
授業が始まる。やっぱりミキタカいないし。あいつ自由すぎ。 モンモランシーとギーシュもいないみたいね。どこでいちゃついてるのかしら。うらやまいやらしいわね。 「皆さん。春の使い魔召喚は大成功のようですね」 それは意見の分かれるところだと思いますシュヴルーズ先生。 「おやおや変わった使い魔を召喚したものですね、ええと……」 顔を伏せる生徒複数名。変わった使い魔だらけでシュヴルーズ先生がいじる相手に困ってる。 何あの蛙みたいなの。マリコルヌの? ちっさ。しょぼっ。後で笑ってやるの決定ね。 キュルケ誇らしげだけどあんたなんか実質呼んでないのと一緒じゃない。偉そうに胸張って。わたしに分けるか触らせるかしなさいよ。 むっ、眼鏡の横に浮かんでるちっちゃなドラゴンがこっち見てる。喧嘩売ってるのかしら。睨み返しておこうっと。 「あれあれ、台車で運ばれてるやつ。あの岩に埋め込まれた人間みたいなのは何?」 「岩に埋め込まれた人間なんじゃないの」 「そこでうごめいてる緑色のバラバラ死体は何?」 「緑色のバラバラ死体に見えるわね」 「なんだ。ルイチュってばなんにも知らないのね」 くっ。屈辱。皆してわけ分かんないモンばっかり召喚しないでほしいわ。グェスがまともに見えてくる。 「今から皆さんには土の系統の基本である『錬金』を覚えてもらいます」 シュヴルーズ先生がルーンを唱え、杖を振るう。ただの石ころがピカピカ光る真鍮に変化した。 「ゴ、ゴ、ゴ、ゴールドじゃない! ゴールド! ゴールド!」 どこの馬鹿かしらねうるさいったらないわと思ったらうちの馬鹿だった。 「グェスちょっと静かになさい」 「だってゴールドじゃないゴールド! あのババァ金作った!」 「ババァが作ったのは金じゃなくて真鍮! そんなに驚くようなことしてないの!」 「ミス・ヴァリエール! 授業中の私語は慎みなさい!」 怒られた。グェスのせいだ。 「おしゃべりをする暇があるのなら……」 シュヴルーズ先生とわたしの視線が交錯した。先生が一つ頷き、わたしが二つ頷き返す。 「それではミスタ・マリコルヌ。ここにある石ころを、望む金属に変えてごらんなさい」 台詞の前半と後半でつながりが悪いと感じた人も多かっただろう。 指名されたマリコルヌをはじめとして、皆が腑に落ちない顔をしている。 それでも文句を言わないのは、わたしが呪文を使えば何がどうなるか知っているから。 今年初めて担当になったシュヴルーズ先生も知ってるところを見ると、かなり有名になってるみたいね。 気のせいかわたしの見せ場を一つ無くしてしまったような……気のせいだといいんだけど。 「ゼロのルイチュだから気ぃ遣ってくれたのね。あのババァ、けっこういいやつじゃん」 「……今度ゼロって言ったら食事抜きだからね」 グェスに言われるまでもなくガックリきたけど、わたしは知らなかった。 今日という日はまだまだ終わらない。災厄がてぐすね引いて待っている。助けて。 昼食。授業に出ていなかったくせして堂々と座ってるミキタカ。だから自由すぎ。 「ルイズさん。自分の中にいる別の存在を感じたことはありませんか。その影響を受けたことは?」 ああ。こいつってちょっとした歓談の話題もこういうものしかないのね。次からは手招きされても遠くに座ろう。 「本来の自分にないはずの傾向はありませんか。ちょっとした趣味嗜好、なんでもかまいません」 ぺティはニコニコ顔でご主人様を見ている。この主人にして使い魔あり。 「外に出ないよう隠しているものはありませんか」 あったって言えるわけないでしょ。 わたしはね、生まれてこのかたずっとむっつり助平で通してるの。誰かの影響なんか受けてないの。 自分の中にやりたい盛りの犬畜生でも抱えてるっていうのかしら。失礼な話よね。 「ねえねえ、あたし達の他にも使い魔いるよ」 ナイスグェス。話題変えよう話題。 グェスの指差した先では巨大な鍋……いや、釜かな。大釜が動いていた。 「あれは使い魔じゃありませんよ」 「使い魔以外の何にも見えないけど」 「あれは私の兄です」 ……血か。 昼食終了。お腹いっぱい。部屋に戻ろうとしたら呼び止められた。 「ルイズさんと私は皿洗い。グェスさんはデザートを配ってください。老師は食材の運び込みをお願いします」 「……なんですって?」 「ルイズさんは皿洗いですよ」 「何が?」 「老師とグェスさんの分の食事をもらいましたから、その御礼です」 貴族であるわたしに皿洗いをしろですって! なんて怒鳴りつける選択肢もあったかもしれないんだけど、なぜかわたしは厨房でお皿を洗っている。 ここんとこ説得されることに慣れてるってのもあるけど、それだけじゃない。 なぜか分からないけどあまり抵抗無いのよね。グェスから言われたことがまだ頭に残ってるのかな。 酌が無いだけマシだなんて思っちゃうんだけど、わたしの前世は酌婦でもしてたんだろうか。 ぺティは年寄りにあるまじき体力で荷物を運んでる。 わたしは黙々と食器を洗っている。 グェスもそれなりに頑張ってるんだろう。貴族に喧嘩売ってたりしなきゃいいけど。 で、ミキタカも隣で皿洗ってる。シエスタと楽しくおしゃべりしながらね。なんでこいつばっかりいい思いしてるのよ。 楽しそうに話するもんじゃないわよ。グラモンの男は口をきくだけで子種仕込むのよ。 「ねえシエスタ」 ミキタカとばっかり話してる。まるでわたしがお邪魔虫みたいじゃないの。ええい、だったらこっちから話しかけてやる! という決意の元話しかけたらそれだけでびっくりされるルイズマジック。何もそんな顔しなくても。 「あの……ミス・ヴァリエール、なぜ私の名前を?」 ……隠れ巨乳に注目して名前覚えてたなんて言ったらまずいよね。 「メイドの名前を覚えていることがそんなにおかしいかしら」 「も、申し訳ありません!」 なんでそんなにビビるのよー。別に怒ってないんだってばー。皿洗いの手ぇ止めてまで怯えることないってば。 「どうかお許しください……ミス・ヴァリエール」 そんな子犬みたいな目で見られてもなあ。身をすくませるシエスタに背徳的なものを覚えるけど、さすがにねぇ。 メイドの午後ワールドだったらすごいことしちゃうけど、ここ現実だし。しかもアウェーだし。 コック達の視線が柔肌に突き刺さる。いじめてるわけじゃないんだってのに。 「シエスタさん、ルイズさんは怒っているわけではありませんよ」 うわ、ずるっ。何よそのフォローのタイミング。こいつはそうやっていいとこ持ってくわけね。 ああ、シエスタの目。王子様を見る目。コックの人達がわたしを見る目……こわっ。何この落差。 何よ何よ、みんなでわたしを悪者にしちゃってさ。わたし抜きで勝手によろしくやってればいいじゃない。 「……お皿洗うの飽きた」 「そうですか」 「デザート配る方がいい。グェスと交代してくる」 いじらしいわたし。ただやめるだけじゃないあたりが成長してる証よね。自分で言ってて空しいけど。あーあ。 厨房ではちょっとしたアクシデントが起きていたけど、食堂ではちょっとどころじゃないアクシデントが起きていた。 今日のわたしは本当に裏目裏目。今日だけじゃないかもしれないけど、深く考えると死にたくなるから考えない。 メイド達が隅で震えている。生徒達は北の壁際を中心に、距離を保って半円状に囲んでいた。 そこから一人だけ抜け出てる子が……あれモンモランシーかしら。 てことはあの傍らにいるのが使い魔? あれが? 蛙って聞いてたけど……あれ蛙? 気持ち悪いことは間違いないけどねぇ。 「いい加減にしてギーシュ! いつまでそうやっている気なの!」 「お嬢様、我々は大変に目立っているようです」 「うるさい!」 懸命な呼びかけなんだけど、相手が大釜じゃ気の毒な人以外の何者にも見えない。 「うるさいのは君だモンモランシー! 君だけじゃない! 皆そうだ! 近寄るな! ぼくに近寄るな!」 うわ、ド修羅場じゃないの。 「そんなことじゃ友達いなくなるよ、ねっ」 「うるさああああい!」 大釜の中で怒鳴ってるもんだから、わんわんと響く響く。 グェスグェスグェス……あ、いたいた。物凄い勢いで野次馬の中に溶け込んでる。 「ちょっとグェス。これどうしたの」 近寄るなり、グェスはわたしの鎖を掴んだ。どんだけ寂しがりやよ。 「いやわかんないだけど。あの釜の中覗こうとしたヤツがいたらしいよ。で、ミッキー兄がキレチャッタってわけ」 ミッキー兄の部分につっこみたいけど今は放っておくことにする。 「だいぶアルコール入ってるみたいよ。ほら」 大釜の脇にはワインの瓶が二本、空になって転がっていた。 まさか一人であれ全部空けたってわけじゃないでしょうね。そんなやつ激昂させたらヤバイんじゃないの。 「近寄るな近寄るな近寄るな近寄るな近寄るな近寄るな誰も近寄るなァァァ!」 うわ……あれなんだっけ。ワルキューレだっけか。 「スッゲェ! ねえ、あれも魔法?」 「魔法以外でできるわけないでしょ」 こんなとこでゴーレム呼び出すなんて、完全に判断能力失くしちゃってるよね。 誰か先生呼んできた方がいいんじゃないの。それとも肉親に説得させるためミキタカ呼んでくるか。 「やめなさいギーシュ! 私の言うことが聞けないの!?」 待てよ……ミキタカを呼ぶ? またあいつにおいしいとことらせるってこと? 「お嬢様、その説得は逆効果でございます」 これは何か予感的なものを感じますでございますよ。わたしの見せ場にできるんじゃないかな。 「うるさい! ぼくに命令するな! どうせ死ぬんだ、もうどうなったってかまうもんかッ!」 ここで今日一日の帳尻を合わせる、と。いいね、これでいこう。 「待ちなさいギーシュ! 狼藉はそこまでよ!」 進み出た勇敢な美少女に集まる視線。ふふっ、今日のヒロインはわ、た、し。 「これ以上暴れたいのならわたしが相手になるわ!」 モンモランシーに小さくウインクをして、本気で傷つける意思が無いことをアピール。取り押さえればいいのよ。 「うるさいゼロのルイズッ! そんなに死にたいなら君から相手してやる!」 ワルキューレが武器を構えてこちらへ向いた。ふん、望むところよ。わたしの爆発なめるなっていうの。 「いくわよグェス! 援護しなさい!」 返事が無い。 「グェス、わたしの詠唱時間を稼ぐのよ!」 返事が無い。 「グェス?」 振り返ると、わたしの鎖を握っているのはなぜかマリコルヌだった。グェスはいない。 「何よマリコルヌ。何であなたがわたしの鎖持ってるのよ」 「君の使い魔、ぼくにこれ握らせて走っていっちゃったんだけど」 「は?」 「君が前に出た時、目にも留まらない勢いで」 「は?」 え? 何? は? あ? あ……あの女アアアアアアアア!
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/43.html
思い出せ、思い出すんだ。さっきまで何をしていたのか。 何時も通り仕事をしていたんだ。そして……鏡だ! 突然鏡が現れたんだ!私はそれに突っ込んでしまったんだ!そしていつの間にか 気絶してしまったんだ。 何ということだ。もっと慎重に行動するべきだった。銃の弾が惜しいからといって 安易に近づいてしまうとは…… 「いい加減聴きなさいよ!」 くそっ!さっきからなんだこの女は! いや、そうだ。今するべきことは状況の把握だ。 さっきからキンキンとうるさい少女に向き直る。 「ルイズ、『サモン・サーヴァント』で平民を呼び出してどうするの?」 突然誰かがいうと少女以外は笑い始めた。 「ちょ、ちょっと間違えただけよ!」 少女が怒鳴り返す。 「間違いって、ルイズはいっつもそうじゃん」 「さすがはゼロのルイズだ!」 周りが囃し立て笑い声がさらに大きくなる。 とりあえず目の前の少女はルイズというらしい。 「もう!あんた誰!どこの平民!」 彼女はさらに大きな声で私に怒鳴ってくる。相当怒っているらしい。 なんてうるさいんだ。だんだん冷静さが戻ってくる。 「私は吉良吉影、そしてここが何処どこだか教えてくれないか?混乱で頭が爆発しそうだよ」 「ミスタ・コルベール!」 彼女はさらに怒鳴る。すると周りの人垣が割れ中年の男性が現れる。 彼女はなにやら男性と話し始める。 しかし話しの内容はさっぱり理解できない召還だの使い魔だの儀式だの… 何かの宗教だろうか?そうすれば彼らの服などは理由がつく。黒魔術とかあんなのだ。 「でも平民を使い魔にするなんて聞いたことがありません!」 彼女がそう言うと、また笑いが起こる。彼女が人垣を睨み付けるが笑いは止まらない。 男性は彼女に諭すように話しかける。そして私を指差し 「~~~彼には君の使い魔になってもらわなければな」 「そんな……」 彼女はガックリ肩を落とす。 理解できていることを総合するとどうやら私はルイズと呼ばれる彼女の使い魔というものになるらしい。 使い魔……語感から判断するに召使みたいなものか? そんなことを考えていると周りがまた五月蠅くなる。 ルイズが私を困った顔で見ている。 一体なんだ? 「ねぇ」 突然話しかけられる。まぁこっちも話しかけられたほうがありがたい。 「なんだ?」 早くここの詳しいことを聞かなくてはいけない。 「あんた、感謝しなさいよね。貴族にこんな事されるなんて、普通は一生ないんだから」 顔を顰める。彼女がなにを言いたいのか理解できない。彼女は目を瞑り手に持った杖を私の前で振るう。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、 我の使い魔となせ」杖を私の額に置くと私の顔を腕で引き寄せる。 「!?」 いきなりで反応できない。まだ混乱しているらしい。 そして私の唇とルイズの唇が重なった。 3へ